AKB48の黒い花びら〜BLACK FLOWER
AKB48の新曲「LOVE TRIP/しあわせを分けなさい」がついに発売された。
そのカップリングの中でも特に異質な楽曲「BLACK FLOWER」について。
そもそも最近のAKB48の曲に面白いものが少ない理由というのは、AKB48というグループの歴史が長くなってきたが故に、今までにグループが作り出してきた"AKBの曲"というイメージに縛られすぎているからだと考えている。
そんな中でこの「BLACK FLOWER」という曲はhuluで配信されている「CROW'S BLOOD」というドラマの挿入歌である事も作用してか、旧来のAKBの曲のイメージの呪縛から解き放たれ、これまでに無かった曲の作りをしている。
ボーカルもドラマでメインを務める宮脇咲良の声が印象的で、宮脇のソロといっても差し支えの無いくらいの比重で彼女の声が聴こえる。
宮脇咲良は明るいイメージと裏腹に、少しばかりの闇を抱えている印象というのがあって(ライブのMCなどでも時折メンバーから指摘されている)、それも上手く作用しているのかもしれない。
作曲は服部真紀子という武蔵野音楽大学で講師を務めるピアニストの方のようだ。
http://www.musashino-music.ac.jp/graduate/teacher/guest/piano/hattori/
ピアノがサウンドの核を成していて、宮脇の息遣いまでも聴き取る事のできる繊細な楽曲の作り、深いエコーは、これまでのAKB48の楽曲のイメージを激しく逸している。
こういった音作りをしているのは乃木坂46の舞台「じょしらく」の音楽も務めたミヤジマジュンだ。
ドラマの挿入歌というとマジすかやセーラーゾンビの時もそうだったが(CROW'S BLOODのサントラはセーラーゾンビと同じゲイリー芦屋でもある)、普段のAKBとは違った番外編的な楽曲が生まれる事がよく有るのだが、このような楽曲は普段からもっと作られていくべきだと思う。
歌詞はドラマのイメージに見合った不気味なもの、
「枯れて腐って
土に還っても
やがていつかは
生まれ変わるはず
黒い花びら
一度死んだって
黒い花びら
私は生きてる」
正直現状落ち込んで来てしまっているAKBで少し前まで次代のセンターと称されていた宮脇咲良が歌うこの歌詞はなんとなく重たい。
「黒い花びら
泣いているのは
なぜかな?
次は誰の番?」
もしAKBというグループについての揶揄も含まれているとしたら、悪ふざけの過ぎる歌詞ではあるが、ホラー作家としての秋元康の手腕が作詞活動で活かされているという稀な事案でもあると言える。
歌詞に出てくる「黒い花びら」という単語から触れずにはいられないのが、先日亡くなったばかりの永六輔の作詞、中村八大作曲による1959年発表の第一回レコード大賞受賞作、水原弘の「黒い花びら」である。
この「黒い花びら」の冒頭の歌詞は
「黒い花びら静かに散った
あのひとは帰らぬ遠い夢」
というもので、AKB48「BLACK FLOWER」の秋元康による歌詞がこの水原弘「黒い花びら」から影響を受けている事は明白である。
しかしながら、永六輔の意図した"黒い花びら"が死にゆく恋人を描いていたのに対し、秋元康はその"黒い花びら"を一度死んでもまた蘇るゾンビのようなものとして描いている。
ここに秋元康のオリジナリティがあり、希代のラブソングの名曲をホラー化してしまうというのは、かなり大胆である。
少し違うかもしれないが、「ゴジラ」が「シンゴジラ」になったように、秋元康により「黒い花びら」が「BLACK FLOWER」に生まれ変わったようなものだ。
歌謡曲の再興というAKB48の隠れコンセプトの一つが、この曲ではわかりやすく実践されているのかもしれない。
自分は何もアイドルが明るい事ばかり歌う必要は無いと思っていて、こういうダークな楽曲というのは、AKBが新しく打ち出す事のできるイメージの可能性のひとつなのではないかと、この「BLACK FLOWER」を聴いて思った。
劇場盤にのみ収録されているカップリングなのだが、いっそのこと「LOVE TRIP」との両A面はこの楽曲でAKB48「LOVE TRIP/BLACK FLOWER」というカタチでリリースしていれば格好良かったんじゃないだろうか。
「CROW'S BLOOD」に全く興味の無い人にも広く聴いてほしい楽曲である。
45th Single「LOVE TRIP / しあわせを分けなさい」 (劇場盤)
- アーティスト: AKB48
- 出版社/メーカー: キングレコード
- 発売日: 2016
- メディア: CD
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ドラマ「CROW'S BLOOD」公式サイト:
http://hulu-japan.jp/crows-blood/sp/