千の病を持つ男
80年代にナゴムレコードというインディーレーベルを主宰し、現在は演劇界でも知られるケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下ケラ)が率いたバンド「有頂天」のキャニオンレコード時代の作品がボックスで再発されるということで、その代表作のひとつである「千の病を持つ男」という曲を紹介したい。
「千の病を持つ男」は元々インディー時代の楽曲なのだが、キャニオン時代でいうとライブアルバムの「SEARCH FOR 1/3 BOIL」に収録されている。
有頂天は基本的にニューウェーブサウンドのバンドで、この曲も例に漏れずファンシーなシンセが鳴り響き、疾走感があるメロディックでポップな曲調だ。
が、歌われているのは
「ほら見てよこの私 ヤマイ
いつでもヤマイ ヤマイが踊る」
という異端を半ば自虐的に誇示する歌詞。
当時現在とは比べものにならないほど肩身の狭かったであろうサブカルチャーに根ざしたバンドであった有頂天のテーマソングのような歌詞である。
聴き流してしまうとよくわからないかもしれないが、かなりブラックな内容。当時の流行り言葉でいうと「ほとんどビョーキ」みたいな感じだろうか。
意味がありそうで無さそうでありそうな歌詞というのがとても魅力的だ。
「とかくこの世はオバカサン
細胞のテキオウカクサン
今日も私の空アカイ はねかえる体の涙」
という締めの歌詞、自分が異端だという事を認めつつ世間にも「とかくこの世はオバカサン」と舌を出すこの態度が有頂天の魅力かと思う。
この曲の作詞はボーカルを務めるケラによるもので、
有頂天に影響を受けたバンドというのがゼロ年代初頭を中心に少し盛り上がっていたけれど、ケラのこのセンスを凌ぐコトバを持つバンドというのは正直あまり居なかったように思う。
歌詞なんてなんでもよさそうなフリをしながら、正面から日本語の歌詞と向き合っていた所こそ、有頂天が他のニューウェーブバンドと一線を画したところではないか。
ニューウェーブバンドだからといってサウンドばかり気にせずに歌詞にも耳を向けて欲しい、有頂天とはそんなバンドである。