navylight’s blog

当世のアイドルと前世のニューウェーブ

重版出来!、とにかく一話を見てみる

重版出来! 1 (ビッグコミックス)



すでに第二話の放送が終わっているわけだが、TBSドラマ「重版出来!」のとにかく初回を見た。
原作は月刊スピリッツで連載されている松田奈緒子による人気漫画である。
何年か前の「このマンガがすごい」に選ばれていたはずだが、不勉強ながら原作は未読である。

というわけでこの文章は原作を未読な人間による、純粋なドラマだけを見ての感想として受け取って頂きたい。

主演は黒木華、最近はNHK大河の「真田丸」にも出ていたし映画にも多数出演している、かなり好調の役者だ。
個人的には、「リーガルハイ第二シーズン」の敵役事務所の女弁護士役などの印象が強い。


早速、一話見終わっての感想だが、とにかくこの黒木華の力量で突っ走っている感が強い。
もちろん脇を固める名優たちも強豪揃いなのだが、そういった強豪たちを圧倒する"黒木の存在感"といった一点で今のところもっているドラマであると思った。


初回冒頭は黒木の演じる黒沢心の興都館への入社面接のシーンから始まる。
頭からこの黒沢心という人物が、この出版社においてどれだけ異端な新入社員であるかという描写の応酬。
というかそれ以後も、一時間全編にわたってそんな感じであった。

ここからガッツリネタバレしていきます。




初回は主人公・黒沢心の配属された漫画誌で人気長寿連載をもつ、小日向文世演じるベテラン漫画家が、逆上したアシスタントからネット上のアンチ掲示板の内容をFAXで送りつけられ、普段ネットを見ることのないベテラン作家はショックを受けて、休筆宣言をしてしまう...という話。

このトラブルを主人公・黒沢心はどう切り抜けたのであろうか。

ベテラン作家が何より傷ついたのは近年デッサンが狂っているという指摘。

あるきっかけを元に心は気づいた...

「デッサンが狂っているのは漫画家先生が年を取って背が曲がってしまって、原稿を見るときの視線が変わってしまったからだ!!!」

そして心は臆することなくベテラン漫画家にそれを伝える。
(編集部一同、デッサンが狂っていることは口に出さずとも誰もが感じていたため、この指摘を心がすることには大賛成)

めでたくデッサン狂いの解消策を見出したベテラン作家は、連載を再開したのであった。

以上。


というかもうこれは朝ドラである。
何クールか前の「表参道高校合唱部」などもそうだったが、TBSは本当にこういう、朝ドラみたいな作品が大好きだと思う。

明朗快活な主人公の活躍を素直に見届けることのできる人ならば非常に気持ちのよいドラマなのだと思うが、
個人的には黒木華の演技やキャラクターは面白かったものの何か物足りなさを感じた。



まず、不満の原因として挙げられるのは、
主人公を取り囲む環境である。
とにかく皆、主人公に対しての態度が暖かすぎる。
直属の上司であるオダギリジョーもクールな態度と思いきやひたすら暖かい、優しい。
というかこんなにダーティさの無いオダギリは仮面ライダー以来とすら思える。

折角の主人公のキャラクターも、周りがこう理解のある大人ばかりだと、魅力半減してしまうのではないだろうか。
次回予告を見る限り(もう放送はすんでいるのだけれど)、二話では主人公に反感を抱く若手営業マンが話の軸となるようなので、この点は注目したい。


そして何より、大きく指摘したいのはベテラン漫画家に逆上したアシスタントの扱いである。


そもそもこのアシスタントは何年もベテラン漫画家のもとで勤めていたのだが、
いつになっても一人立ちできない彼は、
才能が枯れてもいつまでも業界に居座り続ける小日向演じるベテラン漫画家のような人間がいるから、自分達のチャンスが奪われていくのだ
という言い分で逆上し、小日向のもとを去ったわけだ。
物語の最後、小日向が連載を再開した号の雑誌を手に取り、このアシスタントは何処かの漫画喫茶のソファで一人、ため息をつくのである。


ちょっとヒドいんじゃないだろうか。


この一時間の物語のなかで、
このアシスタントが抱えていた問題などはひとつも解決されない。
そもそもベテラン漫画家の作品の質が低下していたことは誰もが認める事実だったにも関わらず、主人公が提案した改善策によりベテランはすっかり立ち直り、
作品の質まで持ち直すのである。


こうなってしまうとこのアシスタントはただの人柱である。
単なる負け犬だ。

このアシスタントの取った行動の是非は別として、彼の存在を全く軽視しているこのドラマは、少なくとも若者のために作られたものではない。
安心して理想の部下の奮闘ぶりを見守りたい、そんな腰の落ち着いた大人たちのために作られた作品だ。

若者があまりテレビを見ない昨今、
百歩譲ってそういう作品でも構わないとは思うのだが、
だったら前半で繰り広げられた、逆上した彼以外のムロツヨシをはじめとするその他のアシスタント達の描写はなんだったのだろうか。

ベテランにネームをチェックされるときのムロツヨシは明らかに何かを抱えた表情に映っていたし、
すっかり背を曲げて世間から衰えを指摘されていることも気づかない鈍感な大御所の元で黙々と作業を続ける彼らは、決して幸福そうには見えなかった。

ラスト、立ち直った漫画家はデジタルな作業設備も整えてすっかり新規一転ハッピーエンド!編集者ともなんでも言い合える仲になってめでたしめでたし!



ハッキリ言ってしまうが全然ハッピーエンドじゃないと思う。
重箱の隅をつつくようだが、デジタル設備が整えられたことによりアシスタントの仕事も減るかもしれない、
そうなって暇を出されたらアシスタントはどうなるのだろうか。

この際、質の低下したベテラン漫画家の作品がデッサンが変わったくらいで持ち直したなんて話は聞いたことないとか、そういう問題には目をつむりたい。

一応若者である自分の立場から言わせてもらうと、
一見明るいその雰囲気とは裏腹に、
この「重版出来!」実は夢も希望も無い作品なんじゃないかと、
この初回を見終わったあと思った。

まあ、現実的といえばあまりに現実的なのだが。。。

PS.
それでも黒木華の演技は素晴らしいと思うし、
ここまで心情を想像させるムロツヨシの演技も素晴らしいと思う。
上記の感想を書いた後、原作でこの話に目を通してみたのだが、
アシスタントの描写は当然ドラマほど細かくはなかったし、庇いようのない存在として描かれていた。
表現方法が変わっただけで、美談も美談に映らなくなるのかもしれない。