navylight’s blog

当世のアイドルと前世のニューウェーブ

電撃的東京の考え方

電撃的東京

ロックはロックでJ-POP(歌謡曲)など聴くには値しない、ロック好きにはよくある考え方だ。
しかし、それを覆して歌謡曲だって十二分にロックであるという事を謳った先人がいた。
近田春夫である。

近田春夫の歌謡曲リスペクトの理論編が著書「気分は歌謡曲」なら、「電撃的東京」はその実践編である。
1978年にリリースされた本作は、当時の歌謡曲の中から近田春夫の特に気に入った曲の近田春夫とハルヲフォンによるロックアレンジのカバー集である。
自分がこのアルバムが近年のJ-POPのパンクやメタルアレンジのカバー集と一線を画していると思うところは、カバーの原曲を聴いてみると、大胆にロックアレンジされていると思いきや、意外にも原曲に割と忠実なアレンジのカバーなのである。
こういった点からこのアルバムが「ダサいものをカッコよく」というよりは、「カッコよいものをよりカッコよく」という思想の元制作されたであろう事が分かる。
つまり、近田春夫は歌謡曲という実は先進的な音楽をやっているものを、ロックとして演じることによって偏見を無くし、純粋に"曲"として世の中に問いたかったのではないだろうか。
ボーダーレスに音楽を音楽として捉えていた彼だったからこそ、テクノやヒップホップなどにも早い段階で理解を示せたのかもしれない。
近田春夫のような立場で音楽を捉えるミュージシャンは、ヒップホップ畑などでは"ディグる"というような言葉が象徴的なように、決して珍しい存在ではなくなっている。
しかし、ロックの世界では、当時の近田春夫のような存在は殆どいないのではないだろうか。
当時はジャズなどの先行ジャンルから差別をされていたロックが、今は一番他のジャンルに差別的で、他のジャンルの音楽を聴く耳を持たなくなってしまっている気がする。
そんな中でミスチル乃木坂46の曲のカバーしたといった話や、アイドルソングに理解の深いBase ball bearの小出の存在は非常に貴重だ。
音楽ジャンルはどんどん細分化されていくが、聴く側としても、それは多分とてもつまらないことで、ジャンル分けさえ無ければ、もっと面白い音楽に出逢える確率も上がるのだろうと思う。
それにしても近田春夫、一番すごいのはやはり、言いっぱなしではなくしっかり理論を実践へ移した事である。

 

定本 気分は歌謡曲

定本 気分は歌謡曲

 

 

 

電撃的東京

電撃的東京

 

 

 

 

 

とと姉ちゃんがどんどんつまらなくなっていく

連続テレビ小説 とと姉ちゃん 完全版 ブルーレイ BOX2 [Blu-ray]

 

さて、9月で終わる事になっている朝ドラ「とと姉ちゃん」だが、残念な事にここ何週間かめちゃくちゃつまらなくなっている。


それはここ最近のとと姉ちゃんが恋愛、そして結婚の話に終始しているからである。


自分は決して恋愛ものが嫌いなわけではない、では何故とと姉ちゃんがつまらないのか、

とと姉ちゃんに出てくるラブストーリーには一つも魅力が無いからである。

 

最初から結ばれそうな人間同志が順番に結ばれていくだけ、そんなことにまるまる一週間の話の大半を持って行かれていて、面白かった雑誌作りのエピソードが途端に少なくなった。


唐沢寿明演じる編集長花山も以前よりはおとなしくなってしまったし、

人数が増え、和気藹々とやっている編集部はまるでサークルのようで、リアリティが全く無くなった。


脚本家が何を思ってとと姉ちゃんに浅薄なウェディングストーリーを持ち込んだのかは分からないが、朝ドラで"結婚"を描く事はマストだとも言うのだろうか。


家族を支えるため、仕事に賭けてきたとと姉ちゃんが星野の子供をかわいがる様というのも、なんだか当然の帰結という感じでつまらない。
さらに、とと姉ちゃんでは子供を育てる苦労みたいなものはそれほど強く描かれておらず、常子の子供とのふれあいは綺麗事感が強い。

 

登場人物も後半になって出てきた社員達はみんなモブキャラのようでまったく個性が無いし、見るのが段々つらくなってきた。


一時は面白かったとと姉ちゃん、どうしてこうなってしまったのだろうか。


もはやまた面白くなる気はあまりしていない。

青空が違う

世界には愛しかない(TYPE-C)(DVD付)

欅坂46「青空が違う」。「世界には愛しかない」のカップリングで、乃木坂46のメインコンポーザーと言っていいだろう杉山勝彦の初の欅坂46での作曲である。

杉山勝彦の作曲ということで曲調的にはかなり乃木坂のものに近い。
パフォーマンスをしているメンバーは志田愛佳菅井友香守屋茜渡辺梨加渡邉理佐の5人。


歌詞は都会で暮らす遠距離恋愛の彼氏を訪ねた女の子の話で、地方出身者の多い欅坂らしい内容。太田裕美の「木綿のハンカチーフ」のその後といった感じだろうか。
「青空が違う」は秋元康の秀逸な比喩表現が炸裂している事でも素晴らしい曲で、冒頭の

 

「初めて来た都会は人と人を

洗濯機のようにかき混ぜている

テレビで観てたあの華やかさは
秩序のないエゴに見える」


という歌詞などが素晴らしい。

 

最近の秋元康は"リプライ"と"LINE"とかのSNSやネットに纏わる単語を意識的に歌詞に盛り込んでいるのが透けて見えて、そういう所は少し不自然に聴こえてしまっていて、なんだかなあと思っていたのだけど、この「青空が違う」で出てくる"Siri"という単語にはそんなに違和感を感じないのは何故だろう。

 

歌詞を追っていると、タイトルの「青空が違う」が告げているように、この恋人同士の関係はやがて破綻してしまうのであろう事が感じられてくる。

 

田舎から訪ねてきた彼女に対する、彼氏の

 

「来るとわかってたら いつだって
君を迎えに行ったよ」


「風邪が伝染るからと キスしない」

 

こういった反応には、都会で何かあるんだろうなあ…という勘繰りをさせられてしまう。

 

しかし、そんな彼氏に対して


「本当は一緒に帰って欲しいけど
夢を絶対叶えてほしい」


という彼女がとても健気で切ない。

 

「散らかった部屋のあちこちに
あなたの努力と 闘いの日々がある」

 

とあるが、散らかった部屋が必ずしも努力の跡なのだろうか。都会での彼氏の荒んだ生活も垣間見える気がする。

 

遠距離恋愛の彼氏に対する彼女のこちらの心が痛くなる程の好意的解釈、悲しいくらい一途な想いがこの曲のキモだ。

https://itunes.apple.com/jp/album/qing-kongga-weiu/id1138610617?i=1138611037&uo=4&at=10l8JW&ct=hatenablog

 

世界には愛しかない(TYPE-C)(DVD付)

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2016年のInvitation

45th Single「LOVE TRIP / しあわせを分けなさい Type D」通常盤



先日の選抜総選挙によって選ばれたメンバーが唄うAKB48の新曲「LOVE TRIP」のカップリング曲のMVのショートバージョンが、続々とyoutubeで公開されている。

 

中でも良いのが、アップカミングガールズによる「2016年のInvitation」という曲だ。

 

アップカミングガールズは選抜総選挙で65位から80位までに選ばれたメンバーによるユニットで、曲がもらえるユニットの中ではランキング上は一番下のグループである。

 

松井珠理奈が半ば不動のセンターを誇るSKE48で、現役メンバーとしては唯一北川綾巴と共にシングルのセンターを経験した事のある宮前杏実が、65位ということで「2016年のInvitation」のセンターを担当している。

 

そんな宮前ももう卒業が決定しているので、この曲が彼女がセンターをやる最後の曲になるだろう。

他にもNGT48のメンバーが唯一入っているのがアップカミングガールズだったりとか色々あるのだが、肝心の曲についてご紹介しよう。

 

風のインビテーション(Invitation) [EPレコード 7inch]

風のインビテーション(Invitation) [EPレコード 7inch]

 

 

秋元康でInvitationといえばおニャン子クラブ福永恵規「風のInvitation」を思い出すが、あの曲に負けず劣らず「2016年のInvitation」もかなりの爽やかソングである。

 

まだショートバージョンしか公開されていないので断片的な歌詞しか分からないのだが、

 

「誰かが いつだってみつけてくれる
目立っていなくても忘れてない
私は私のペースでいいんだ
明日は予想よりもちょっぴりいいことがある」

 

という歌詞は前作のリード曲「翼はいらない」の「ゆっくり歩こう」というメッセージとも繋がる部分があると思う。
なんというかこの曲はランキング当落線上にいたメンバー達が歌っている訳だが、実のところ歌詞の内容は、惜しくもランクインする事ができなかったメンバー達のためのものでもあるという気がするのだ。

 

前向きで少し楽観的すぎるようにも思えるのだけれど、これからAKBを卒業して女優になるという宮前を中心に据えて、NGTの加藤やAKBの谷口など、次代を担うであろうメンバーが唄うこの歌は、どこか素直に聴けてしまう。

フルコーラスで聴ける日が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

もっとリアルに

ESSENCE:THE BEST OF IPPU-DO

 

土屋昌巳率いる一風堂は70年台後半から80年代初頭にかけて活躍したニューウェーブバンドである。


細かい説明は省くとして、このバンドはBLANKEY JET CITY等をプロデュースした土屋昌巳と、おニャン子クラブとんねるずの作曲、近年では堤幸彦作品のサントラでもお馴染みの見岳章の二人を擁していたという点でかなり重要なバンドである。

後のJ-POPシーンへの貢献度という意味ではYMOにも引けを取らないと考えるのは大袈裟かもしれないが、あながち間違ってもいないと思う。

 

そんな一風堂のデビューシングルが「もっとリアルに」である。

ファーストアルバムはもっと土屋昌巳のギターが炸裂しているのだが、この曲では大人しめで、どちらかといえば見岳章のシンセの方が目立つ。逆にセカンドシングルの「ブレイクアウトジェネレーション」は土屋の激しいギタープレイが聴ける。
典型的なテクノポップ土屋昌巳の出自であるビートロックの要素が複雑に絡み合っているのが、初期の一風堂の魅力だ。

 

ヒット曲の「すみれSeptember LOVE」では作詞家の竜真知子に歌詞を任せていた一風堂だが、この曲をはじめ、多くの作品は土屋昌巳が歌詞を手掛けている。

土屋昌巳の落ち着いたミステリアスな雰囲気に似合わず、なかなか悪ガキっぽい元気な歌詞が良い。

 

「もっとリアルに」だって結局ポルノを"もっとリアルに見たい"というようなしょーもなっ!な感じなのだが、

 

「もっとリアルに生きていたいそれだけさ」

 

の一言はなんだか響くものがある。

 

エロは真理か。

https://itunes.apple.com/jp/album/mottoriaruni/id738384724?i=738384896&uo=4&at=10l8JW&ct=hatenablog

 

 

ESSENCE:THE BEST OF IPPU-DO

ESSENCE:THE BEST OF IPPU-DO

 

 

 

BELLRING少女ハートの健在っぷり

BEST BRGH

 

BELLRING少女ハート(以下ベルハー)の8/16新宿タワレコのインストアを見てきた。

 

ファーストアルバムが出た頃、ついにアングラアイドルの決定版が出たかと、かなりの興奮を持ってベルハーを見に行っていた事を覚えている。

 

あの頃は丁度でんぱ組.incやBABYMETALの名前が世間に知られてきた頃で、ももクロの次はいったい誰なのかということに多くのアイドルファンの関心はあったかと思う。

 

ファズギターやチープなオルガンがサウンドの主体のベルハーは、ゴリゴリのアキバ系でも、渋谷系のお下がりでもない、独自の世界観が好きだった。
2013年のTIFでモデルガン持って出てきた場面は良い想い出だ。

 

あれから3年経ち、正直ベルハーからの関心はかなり薄れていたのだが、今回見たベルハーは3年前と一つもブレていなく、メンバーもかなり変わっているようだが、それに伴う違和感もさほど無く、ベルハーというフォーマットの力強さを感じた。

 

ベストアルバムの発売に伴うインストアということでか、昔の曲も幾つか披露され、とても懐かしく聴いた。

 

今ではBABYMETALなどが海外で成功している反面、結局そういうのは大きな事務所に所属しているグループがほとんどで、
あの頃ほどこういう地下っぽいアイドルの成功モデルみたいなのは想像しにくくなっているけれど、根気強く活動を続けているベルハーにはなんらかのカタチで報われてほしいと思ってしまった。

 

BELLRING少女ハートは絶対流行らないけど、絶対歴史の片隅には残るグループだろう。

 

万が一流行るような事があったらその時はすいません。

 

BEST BRGH

BEST BRGH

 

 

 

BedHead

BedHead

 

 

ライスとチューニング (feat. BELLRING少女ハート)

ライスとチューニング (feat. BELLRING少女ハート)

  • HELクライム
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255

 

コンビニ人間を面白いとは言ってはいけない

コンビニ人間



先日芥川賞をとった村田沙耶香コンビニ人間」を読んだ。

とても面白かったが、この作品を面白いと思うような人は、あまり人にはこの作品を進めない方が良いのかもしれない。

 

普段は芥川賞の受賞作品だからといって、特別読むようなことはないのだけれど、なんとなくタイトルが気になっていた。

 

内容はというと日常生活の中でいわゆる"普通"の感覚を理解する事ができず、自分がコンビニ店員という事にのみアイデンティティーを唯一見出している古倉という女性の物語。

 

この作品では「マイノリティーを叩く事に容赦のないマジョリティー」がかなり強調されて描かれている。
そんなマジョリティー、世間一般の価値観にどう合わせていくか、コンビニ人間の自分が普通の人間の中にどう紛れ込んでいくかというような事が作品のテーマだ。

 

子供の頃から普通の感覚が理解できなかった古倉は18年間コンビニ店員としてアルバイトを続けていく中で、"普通のふり"を身につけた。

 

どういう事を言うと他人は自分に違和感を覚えるのか、そんな事に気を配りながら、当たり障りの無い会話をしていく。

 

日常でそういう事を意識的なり無意識的になり人は皆しているのだろうとは思うが、異常なまでに細かい心理描写が、そういった行為が本当はとても不自然な事なのだと思わせる。

 

「私の喋り方も、誰かに伝染しているのかもしれない。
こうして伝染し合いながら、私たちは人間であることを保ち続けているのだと思う。」

というこの部分。


日頃触れ合っている人間が変わると自分の口調も変わっていく、誰かの口調が誰かの口調に伝染していく、それは、他人に合わせなければいけないという人間の深層心理を現しているのではないだろうか。

 

37歳の独身のコンビニのアルバイトしかやった事のない人間がどのように生きてきて、どのようにこれから生きていくのか、未読の方は是非読んで頂きたい作品だ。

 

この「コンビニ人間」のような大きな声では薦めにくい傑作を多くの人に知れ渡らせ、適切な評価を与えるという意味でも、文学賞というのは意味があるのかもしれないと思った。

 

 

コンビニ人間

コンビニ人間